2025.08.12更新

相続が発生すると、相続人は被相続人の財産をどのように扱うかを選択する必要があります。
財産の内容は人それぞれで、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産が含まれることもあります。
こうした状況では「相続放棄」が望ましい場合があります。
本記事では、相続放棄の基本や注意点について解説いたします。

 

相続の手続き3つ

相続が発生すると、相続人は「単純承認」・「限定承認」・「相続放棄」の3つの手続きから選択することになります。
各手続きには特徴があり、被相続人の財産内容や状況に応じて適切な方法を選ぶことが重要です。

 

単純承認

単純承認とは、被相続人の財産をすべて無条件に受け継ぐ手続きです。
プラスの財産だけでなく、借金や保証債務などのマイナスの財産も引き継ぐことになります。
特に手続きせずに財産を使ったり、一定期間が過ぎたりすると、自動的に単純承認したとみなされるため注意が必要です。
被相続人の財産状況が明確で、負債が少ない場合に選ばれることが多い方法です。

 

限定承認

限定承認は、相続によって得た財産の範囲内でのみ被相続人の債務を弁済することを認める制度です。
相続人全員が共同して家庭裁判所に申し立てる必要があります。
プラスの財産より借金が多い場合でも、相続財産の範囲内であれば借金を負担しなくて済む点がメリットです。
ただし、手続きが複雑で、税務上の負担が生じる可能性もあるため、専門家への相談が望ましいです。

 

相続放棄

相続放棄は、被相続人の財産や債務を一切引き継がない手続きです。
自分に相続が始まったことを知ってから原則3ヵ月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります。
相続放棄が認められると、初めから相続人ではなかったものとみなされ、プラスの財産も債務も引き継がないことになります。

 

相続放棄の進め方

相続放棄をする場合は、家庭裁判所への申出が必要です。
申述書には、被相続人との関係や放棄の理由を明記し、戸籍謄本や相続関係を証明する書類を添付して提出します。
提出期限は、相続があったことを知ってから3ヵ月以内となっており、この期限を過ぎると単純承認したとみなされることがあります。
期限内に書類不備なく手続きを進めることが重要であり、不安がある場合は弁護士など専門家への相談が推奨されます。

 

相続放棄する際の注意点

相続放棄には主に2つの重要な注意点があります。

 

相続放棄は撤回できない

相続放棄は原則として一度申述して受理されると撤回できません。
相続放棄後にプラスの財産が見つかっても、放棄を取り消すことはできないため、放棄の判断は慎重に行う必要があります。
財産の全体像を把握しきれていない場合は、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てることも検討しましょう。

 

相続順位が変わる

相続放棄をすると、次の順位の相続人に権利と義務が移ります。
たとえば、子が相続放棄した場合、被相続人の兄弟姉妹などが新たな相続人になります。
相続放棄をしたことによって新たに相続人となる親族が放棄の手続きを怠れば、意図せずに借金を相続してしまうおそれもあります。
このように、放棄の影響が他の親族に及ぶことがあるため、事前に親族間で情報共有することが望ましいです。

 

相続放棄したほうがいいケース

相続放棄は、借金が多い場合や管理が難しい財産を抱える場合など、特定の状況では有効な選択肢となります。

 

負債が多いとき

被相続人が多額の借金を抱えていた場合、相続放棄を選ぶことが合理的です。
相続すると、借金の返済義務も引き継がれるため、経済的な負担を回避するために放棄を選択する相続人が少なくありません。
クレジットカードの未払金や金融機関からの借入金、保証人になっていた債務など、後から判明する負債もあるため、相続財産の調査は慎重に行うべきです。
財産よりも明らかに負債が多い場合は、早めに相続放棄の手続きを進めることが推奨されます。

 

固定資産の維持が大変なとき

相続財産に空き家や山林、農地などの固定資産が含まれている場合、その維持管理が大きな負担となることがあります。
固定資産税や補修費用のほか、処分に時間や費用がかかるケースも少なくありません。
このような不動産を相続した場合、資産価値が低いと維持する意味が薄く、放棄を検討する余地があります。
将来的なトラブルを避けるためにも、専門家と相談しながら判断することが大切です。

 

まとめ

相続の手続きには、単純承認、限定承認、相続放棄の3種類があります。
その中でも相続放棄は、借金や管理困難な財産を避けるための有効な手段です。
しかし、手続きには期限があり、一度放棄すると原則として撤回できないという重要な注意点もあります。
相続放棄を検討する際には、事前に財産の状況を把握し、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

投稿者: 棚田 章弘

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