2025.08.22更新

不動産にはさまざまな権利が存在し、法律上それぞれ明確に分類されています。
所有する、借りる、担保にするなど、不動産をめぐる権利関係は複雑であり、正確な理解が求められます。
各権利の内容や特徴を知っておくことで、不動産取引や相続、契約時のリスクを回避しやすくなります。
本記事では、代表的な不動産の権利について解説します。

 

不動産の権利

不動産には、所有や使用、担保などに関する多様な権利が存在いたします。
これらの権利は、法律上の分類に基づき、それぞれ独自の内容と効力を有しています。
ここでは、次の代表的な不動産の権利について解説していきたいと思います。

 

 所有権
 借地権
 抵当権
 質権
 先取特権
 地役権

 

各権利の特徴や違いを把握することで、不動産取引や相続、賃貸借契約などにおけるリスク管理や適切な対応に役立ちます。

 

所有権

所有権とは、不動産を自由に使用し、収益を得て、処分することができる最も包括的な権利です。
土地や建物を取得した場合には、通常この所有権が移転され、登記によって第三者に対する対抗力を備えます。
所有者は、他者の不法占拠に対して返還請求や妨害排除を求めることも可能です。

 

借地権

借地権とは、他人の土地を建物所有を目的として借りる権利です。
一般に「賃借権」と「地上権」の2種類に大別され、それぞれ権利の内容や登記の可否に違いがあります。

 

■賃借権
賃借権は、土地の所有者との賃貸借契約に基づいて発生する権利です。
この権利は、月々の賃借料を所有者に払うことで、土地を利用できる権利になります。
あくまで土地の所有者との契約を介した間接的な土地利用になるため、建物の転貸や譲渡は所有者の許諾が必要です。
また、賃借権に登記の義務はないため、一般的には登記されません。

 

■地上権
地上権は、他人の土地において建物や工作物を所有するために、物権として設定される権利です。
賃借権と異なり、地上権は登記をもって対抗力が認められ、譲渡や転貸も自由に行うことが可能です。
また、地上権の存続期間や更新についても、契約によって比較的柔軟に定めることができます。

 

■底地
底地とは、借地権が設定された土地から借地権の評価を除いた部分を指します。法律上明確に「底地」は定義されているわけではありませんが、取引上は底地という名称で呼ばれます。
借地権者が建物を所有している間、所有者は土地を自由に利用することが制限されます。
ただし、借地権の更新や譲渡に際しては、所有者の承諾が必要になり、一定の交渉力を持ちます。
また、底地を売却する場合には、借地権との関係性や価格の算定などに慎重な配慮が求められます。

 

抵当権

抵当権は、債権を担保する目的で不動産に設定される担保物権です。
債務者が債務を履行しない場合、抵当権者は不動産を競売して、その代金から弁済を受けることができます。
特徴として、不動産の使用や占有を必要とせず、債務の返済がなされている限り、所有者は自由に利用できます。
主に住宅ローンや事業用不動産の融資などで頻繁に利用される制度です。

 

質権

質権とは、債務の担保として債務者または第三者が不動産、動産や権利を引き渡すことにより成立する権利です。
債務者が返済を怠った場合、質権者は質物を売却して優先的に弁済を受けることができます。
ただし、不動産質権の場合は物の引渡しが原則であり、抵当権と比較すると制約が多いとされます。

 

先取特権

先取特権は、法律により他の債権者に先立って弁済を受けることが認められる担保物権です。
不動産に関する先取特権には、たとえば不動産工事費用に基づく先取特権などがあります。 不動産工事費用が支払われない場合は不動産工事費用の先取特権により回収ができることとなりますが、一方で、不動産工事費用の先取特権は、その効力を生じるためにはその費用の登記が必要であり、登記ができていないと先取特権は行使できません。
債権の内容や時期により、優先順位や実行の可否が異なるため、専門的な判断が求められます。

 

地役権

地役権は、ある土地の便益のために他人の土地を使用することを認める物権です。
たとえば、通行地役権は通路の確保、送水地役権は水路の設置などに用いられます。
地役権は土地に付随して移転し、要役地の所有者が変わっても効力を維持します。
また、登記によって第三者に対抗することが可能であり、地域開発や共同住宅の整備などにも利用されています。

 

まとめ

不動産に関する権利は、多岐にわたりそれぞれ異なる法的性質を持っています。
所有権や借地権のような使用権、抵当権や質権のような担保権、さらには地役権や先取特権といった特殊な権利まで、その種類は多様です。
それぞれの権利の内容や効力を正確に理解することは、不動産の取得や管理、取引において極めて重要です。
不明点や疑問がある場合には、弁護士への相談を検討してみてはいかがでしょうか。

投稿者: 棚田 章弘

2025.08.12更新

相続が発生すると、相続人は被相続人の財産をどのように扱うかを選択する必要があります。
財産の内容は人それぞれで、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産が含まれることもあります。
こうした状況では「相続放棄」が望ましい場合があります。
本記事では、相続放棄の基本や注意点について解説いたします。

 

相続の手続き3つ

相続が発生すると、相続人は「単純承認」・「限定承認」・「相続放棄」の3つの手続きから選択することになります。
各手続きには特徴があり、被相続人の財産内容や状況に応じて適切な方法を選ぶことが重要です。

 

単純承認

単純承認とは、被相続人の財産をすべて無条件に受け継ぐ手続きです。
プラスの財産だけでなく、借金や保証債務などのマイナスの財産も引き継ぐことになります。
特に手続きせずに財産を使ったり、一定期間が過ぎたりすると、自動的に単純承認したとみなされるため注意が必要です。
被相続人の財産状況が明確で、負債が少ない場合に選ばれることが多い方法です。

 

限定承認

限定承認は、相続によって得た財産の範囲内でのみ被相続人の債務を弁済することを認める制度です。
相続人全員が共同して家庭裁判所に申し立てる必要があります。
プラスの財産より借金が多い場合でも、相続財産の範囲内であれば借金を負担しなくて済む点がメリットです。
ただし、手続きが複雑で、税務上の負担が生じる可能性もあるため、専門家への相談が望ましいです。

 

相続放棄

相続放棄は、被相続人の財産や債務を一切引き継がない手続きです。
自分に相続が始まったことを知ってから原則3ヵ月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります。
相続放棄が認められると、初めから相続人ではなかったものとみなされ、プラスの財産も債務も引き継がないことになります。

 

相続放棄の進め方

相続放棄をする場合は、家庭裁判所への申出が必要です。
申述書には、被相続人との関係や放棄の理由を明記し、戸籍謄本や相続関係を証明する書類を添付して提出します。
提出期限は、相続があったことを知ってから3ヵ月以内となっており、この期限を過ぎると単純承認したとみなされることがあります。
期限内に書類不備なく手続きを進めることが重要であり、不安がある場合は弁護士など専門家への相談が推奨されます。

 

相続放棄する際の注意点

相続放棄には主に2つの重要な注意点があります。

 

相続放棄は撤回できない

相続放棄は原則として一度申述して受理されると撤回できません。
相続放棄後にプラスの財産が見つかっても、放棄を取り消すことはできないため、放棄の判断は慎重に行う必要があります。
財産の全体像を把握しきれていない場合は、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てることも検討しましょう。

 

相続順位が変わる

相続放棄をすると、次の順位の相続人に権利と義務が移ります。
たとえば、子が相続放棄した場合、被相続人の兄弟姉妹などが新たな相続人になります。
相続放棄をしたことによって新たに相続人となる親族が放棄の手続きを怠れば、意図せずに借金を相続してしまうおそれもあります。
このように、放棄の影響が他の親族に及ぶことがあるため、事前に親族間で情報共有することが望ましいです。

 

相続放棄したほうがいいケース

相続放棄は、借金が多い場合や管理が難しい財産を抱える場合など、特定の状況では有効な選択肢となります。

 

負債が多いとき

被相続人が多額の借金を抱えていた場合、相続放棄を選ぶことが合理的です。
相続すると、借金の返済義務も引き継がれるため、経済的な負担を回避するために放棄を選択する相続人が少なくありません。
クレジットカードの未払金や金融機関からの借入金、保証人になっていた債務など、後から判明する負債もあるため、相続財産の調査は慎重に行うべきです。
財産よりも明らかに負債が多い場合は、早めに相続放棄の手続きを進めることが推奨されます。

 

固定資産の維持が大変なとき

相続財産に空き家や山林、農地などの固定資産が含まれている場合、その維持管理が大きな負担となることがあります。
固定資産税や補修費用のほか、処分に時間や費用がかかるケースも少なくありません。
このような不動産を相続した場合、資産価値が低いと維持する意味が薄く、放棄を検討する余地があります。
将来的なトラブルを避けるためにも、専門家と相談しながら判断することが大切です。

 

まとめ

相続の手続きには、単純承認、限定承認、相続放棄の3種類があります。
その中でも相続放棄は、借金や管理困難な財産を避けるための有効な手段です。
しかし、手続きには期限があり、一度放棄すると原則として撤回できないという重要な注意点もあります。
相続放棄を検討する際には、事前に財産の状況を把握し、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

投稿者: 棚田 章弘

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