2016.08.25更新

自筆証書遺言の場合,遺言書に遺言執行者の指定が記載されていないものはままみられます。

民法では,遺言執行者の指定がない場合,遺言執行者の選任を家庭裁判所に申し立てることができるとされています。

しかし,遺言執行者の指定がなくても,必ず遺言執行者選任しなければならないかというとそうではありません。

遺言の内容によっては,遺言執行者を立てずとも,不動産登記を行うこともできるため,遺言執行者の選任が不要な場合もあります。

遺言執行者の指定がない場合でも,まずは,弁護士に相談し,遺言執行者が必要かどうか相談してみることがよいでしょう。

投稿者: 棚田 章弘

2016.08.11更新

遺言の一要式として,自筆証書遺言というものがあります。

これは,遺言書のすべてを直筆で書くことを要求される遺言書です。

 

では,遺言者が自ら書いてはいるけれども,家族などが遺言者が遺言を書く際に,手を添えて書かれたような遺言は,

有効な自筆遺言証書といえるでしょうか。

 

これについて判断した例として,最判昭和62・10・8があります。

最高裁は,第三者の手を添えて書かれた遺言が有効であるといえるためには,

①遺言者が遺言時に自書能力を有すること

②他人の添え手が単に始筆,改行,文字の間配り,行間を整えるために手を添えたり,添え手が筆記を容易にするために添えられたものであること

③添え手をした他人の意思が介入した形跡がないことが筆跡のうえで判定できること

が必要であるとしました。

 

このうち,①の自筆能力とは,文字を知り,これを筆記する能力のことで,

本来読み書きができたものが,病気,事故などによって資力を失ったり,手が震えたりして,他人の補助を要することになっても,

特段の事情のない限りは失われないものであると判断しています。

 

このように,家族の手を添えられて,遺言が書かれたとしても,上記①~③の条件があれば,遺言は有効になるといえます。

 

 

投稿者: 棚田 章弘

2016.08.09更新

遺言が有効になるための条件はいくつかあります。

まず,15歳以上であることが必要です(民法961条)

次に,成年被後見人などであったとして,意思能力(物事を判断することができる能力)がある限りは,遺言をすることが認められます。

しかし,遺言者に意思能力がなかった場合には,遺言は無効になります。

意思能力がない,もっとも代表的な例として,認知症を発症している場合があります。

ところが,認知症といっても,その症状の重さには程度があり,軽度であれば,意思能力があると判断されることもあり,

一方で,重度の認知症であれば,意思能力がないものとして,遺言は無効となります。

 

このため,遺言が有効になるか無効になるかは,認知症の程度によって変わってくるといえます。

過去の裁判例には,遺言者が認知症を発症していても有効とされた例,無効とされた例の両方があります。

 

いざ,遺言が有効かどうかが争われる場合には,裁判になることが多いと思われます。

遺言が有効だと主張する側は,遺言者が意思能力を有していたことを証明する必要があります。

例えば,遺言当時の遺言者が筆記したメモ,手紙や会話の受け答えの記録,診断書などの証拠を用いて,立証することになります。

 

逆に遺言の無効を争う側は,遺言者が意思能力がなかったことを示す証拠を提出していくことになります。

 

投稿者: 棚田 章弘

2016.07.05更新

自筆遺言証書が封されている場合,法律は家庭裁判所で開封しなければならないとされ(1004条3項),

裁判所外で開封した場合には5万円以下の過料に処するとされています(1005条)

このため,遺言書を見つけたら開封しないで裁判所に検認の申し立てをしなければなりません。

 

では,もし,開封してしまった場合はどうなるのでしょうか。

なかから出てきた遺言書そのものだけで有効な遺言書といえるだけの体裁を整えていればよいのですが,

入っていた封筒などの入れ物と一体で初めて遺言書と判断されるような場合には,

開封することで,遺言書が無効となってしまう可能性があり,実際,開封したことでもって遺言書が無効であるとした裁判例があります。

 

有効になるか,無効になるかは,事案ごとの判断ということになるのでしょうが,

原則に従って,開封は裁判所に検認申し立てを行うことによってすべき,ということになります。

 

投稿者: 棚田 章弘

2016.06.29更新

不倫相手に自分の亡き後に遺産を遺贈するという内容の遺言は有効なのでしょうか。

この点,古い判例ですが,大審院昭和18年3月19日判決は,遺言者が死ぬまで妾として同棲することを条件として金銭を遺贈するとの遺言は公序良俗に反するものであるとして,無効としています。

 そのほかにも,福岡地裁小倉支部の昭和56年4月23「日判決は,不倫関係にある女性に遺産の10分の3を与えるとする遺言を公序良俗に反するものとして無効としています。

同判決は,遺言者が妻と通常の夫婦関係が続いていたこと,不倫相手が遺言者と苦楽をともにしているわけでもなく,家族以上の世話をしていたわけでもなかったこと,不倫相手が遺言者の生前から相当程度の経済的援助を受けていたことなどを理由に遺言を無効としています。

同判決は,上記のような事情にかんがみて,遺言を無効としたので,不倫相手に対する遺贈=無効という単純な図式にはならず,遺言が有効になる余地はありそうではありますが,基本的に,夫婦関係が破綻していない状態で,不倫相手に遺贈したり,遺贈の目的が不貞の継続を目的とするものであったりする場合には,上記の結論に至ることが多いと思われます。

なお,夫婦関係破綻後であった場合には,別の結論になりえますが,こちらは次回に解説したいと思います。

投稿者: 棚田 章弘

2016.06.15更新

借家人が死亡した場合,借家人について相続が発生します。

借家人(賃借人)が死亡し,複数の相続人がいる場合には,共同相続となります。

共同相続は,民法上,共有とされているため,賃借人の地位が法廷相続分に分かれて相続されることになります。

例えば,2名の子の共同相続人がいる場合には,2名がそれぞれ2分の1ずつ割合で賃借権を有することになります。

では,請求できる賃料は,2分の1だけかというとそうではなく,それぞれの相続人に対し,全額を請求できます。

(ただし,契約賃料以上の額を請求できるわけではなく,誰か一人が全額支払ったら,ほかの相続人には請求できません。)

賃貸人としては,お金を払ってくれるだけの資力がある相続人に請求すればよいわけです。

 

では,相続人が賃料を支払ってくれない場合の解除はどうすればよいでしょうか。

この場合,相続人の一人に対する催告は,他の相続人との関係では効果がなく。

相続人の全員に賃料を支払うよう催告する必要があります。

そして,契約の解除の通知も共同相続人の全員に対してしなければなりません。

 

このため,借家人(賃借人)に相続が発生したときに,契約の解除をするには注意して解除手続を踏まないと,

催告したはいいが,全員にしていなかったためにやり直しが必要になってくる場合があります。

投稿者: 棚田 章弘

2016.06.01更新

前回の記事では,夫が不倫相手に対して遺贈する旨を記載した遺言が公序良俗に反して無効とされた例を挙げました。

 

しかし,事実上破綻しており,籍は入っているけれども,実態は夫婦とは言えない場合には,結論が異なってくる場合があり得ます。

 

仙台高裁平成4・9・11は,離婚していない夫婦の夫から内縁の妻に対する遺贈を有効であると判断しました。

この事例では,以下の点が考慮されて有効と判断されたものと思われます。

1 遺言者である夫と妻は婚姻関係にはあったが,妻との不仲が続いており,別居期間も長く,夫婦関係は事実上破たんしていた。

2 遺言者は,生前に妻に対して,居住する土地建物の遺言者持分を贈与していたほか,退職金のうち1000万円を贈与していた。

3 遺言者と内縁の妻と同棲は,遺言者と妻の婚姻破綻より後のことであった。

4 遺贈の対象となっている土地建物は,別居後に遺言者が購入したものであること

5 遺言者の遺贈の意図は内縁の妻の将来の生活保障にあったこと

 

個人的には,大きく影響するのは,妻との間の婚姻関係が継続していたと認められるかどうか,相続人への影響の大小などの事由であると考えます。

 

投稿者: 棚田 章弘

2016.05.17更新

自分が浮気して,別居した場合に,他方の配偶者に婚姻費用(生活費)の請求はできるのでしょうか。

これについては,先例として東京家庭裁判所の平成20年7月31日の審判があります。

この事案は,以下のようなものでした。

 夫婦の間には,長女が一人。

 妻が勤務先の男性と不倫関係になり,不倫相手のアパートで暮らすようになった。

 後に,妻は賃貸マンションを賃貸し,長女を引き取って生活していた。

このような事案で,裁判所は以下のように判断しました。

 別居の原因を自ら作り出した妻は,自らの生活費にあたる分の婚姻費用の請求は権利濫用となり許されない。

 請求できるのは,未成年の長女の実質的監護費用を婚姻費用の分担として請求しうるにとどまる。

 

自ら不貞行為をしながら,婚姻費用の請求をできるとするのは,一般人の感覚からずれているといえ,

裁判所は,子どもの監護養育費用の請求しか認めませんでした。

 

別居の原因を作り出した者からの婚姻費用の請求は制限されることが一般的といえるでしょう。

 

投稿者: 棚田 章弘

2016.05.13更新

相続人が亡くなった場合,預金は,当然に法定相続分に従って,各相続人が取得するものとされています。

このため。理屈のうえでは法定相続分に限り,預金を引き出すことはできることになります。

 

もっとも,銀行は,被相続人の死亡が明らかになった段階で,預金を凍結します。

銀行とすれば,そのまま引き出せるような状況にしておくと,相続人が法定相続分を超える額を引き出して使ってしまうことがありうるからです。

もっとも,銀行が死亡の事実を知らなければ預金口座は凍結されることなく,ATMなどで引き出されてしまう。ということも起こりえます。

 

預金の引き出しに関しては,葬儀費用を支出するために,被相続人の死亡後に預金を引き出した,という事例が多くみられます。

しかし,引き出した預金の使い道についてきちんと説明できない場合,紛争に発展するケースがあります。

 

このため,被相続人の死亡後に,預金を引き出してしまった,という場合には,

その引き出した預金の使徒をしっかりと説明できるよう。領収書などの支出を証明する資料を保管しておくことが重要となります。

投稿者: 棚田 章弘

2016.04.18更新

建物の賃貸借契約の場合,原則として借地借家法の規定の適用があります。

この法律によって,賃貸期間を契約で定めても,原則として賃貸借契約は更新されてしまい,期限を定めても必ず立ち退いてもらうということができません。

立ち退いてもらうためには,「正当事由」が必要とされていますが,この正当事由があるというためのハードルが高いのが実情です。

 

しかし,一定期間をもって,賃貸借契約を終了させることへの需要が大きいため借地借家法は,「定期建物賃貸借」という方式を用いることで,更新がない賃貸借契約を認めています。

もっとも,定期建物賃貸借契約は,書面で作成し,契約の更新がないことを明記すること,期間満了により賃貸借契約が満了することを書面を交付して説明するななど一定の要件が必要となります。

 

また,契約書の作成だけではなく,定期賃貸借契約の満了の1年前から6か月前までに期間満了によって賃貸借契約が終了することも通知するといった手続的な要件も必要になります。

 

とはいえ,定期建物賃貸借契約は,期間の満了により,更新なく賃貸借契約を終了させることができるため,うまく活用することによって,不動産の有効活用を図ることができます。

投稿者: 棚田 章弘

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